祈り、暮らし、自然、歴史。いろんな顔をもつ”外海エリア”
長崎市中心部から車を走らせること約1時間。海岸沿いのサンセットロードを進むと、山と海に囲まれた歴史のまち・外海地区に辿り着きます。
ここはキリスト教弾圧に屈することなく脈々と信仰を継承し続けるため生まれた独自の文化が息づく場所として、世界文化遺産にも登録され、映画「沈黙-サイレンス-」の舞台となった場所でも有名です。
今回は、長崎やキリシタンをテーマにいくつもの名作を生みだした作家「遠藤 周作」の生誕100周年記念にちなんで、彼のゆかりの地・外海をご紹介します。
遠藤周作文学館
太陽の光がもたらす煌めき
文学館の随所に見られる意匠たち。エントランスホールに入ると、光の粒が降り注いできます。それは「外海の光」と名付けたステングラスの仕業。『沈黙』の文学世界と外海の海をイメージしたブルーのガラスに、点在する白い点が波の泡を表現しているとか。
ガラスを抜けて差し込んでくる光は、天候によって乱反射の模様を変え、自分が深い海の底に漂っているかのような錯覚に陥ってしまいます。
思索空間アンシャンテ
ようこそ、文学の世界の入り口へ
異国情緒あふれる長崎のキーワード「隠れキリシタン」をテーマに外海地区が舞台となった文学作品『沈黙』。数年前に映画化され話題となったこの地域には、原作者・遠藤周作の文学館があります。
作品の世界観を味わえると全国からファンが通うこの聖地に立つ文学館に、実は穴場の素敵空間があるのです。その名も「思索空間アンシャンテ」。全面ガラス張りで最高の海景色が目の前に広がるロケーションと、落ち着いた雰囲気が融合する不思議な部屋。訪れる人が、ただただ余韻に浸るために用意された、贅沢すぎる空間となっています。読書をするもよし、景色をぼーっと眺めるもよし。せっかく外海に来たのなら、まずはこの特等席へgo。
「アンシャンテ」はフランス語で「はじめまして」の意味。
旅の始まりにはもってこいの場所です。
【思索空間アンシャンテ】
TEL:0959-37-6011
長崎市東出津町77(遠藤周作文学館内)
休:12/29日~1/3
駐車場:あり
COLUMN
遠藤作品ゆかりの長崎【4選】
「長崎について語れと言われたら滅茶苦茶に多いんだけれども、私が特にいいたいのは、
人間には自分の道場になるような場所が必ずどこかにあるということです。
自分の人生の問題と深くかかわりあってしまうような場所があって、私にとっては長崎及びその周辺が、
少なくとも過半生においてそういう意味のあるということはいえます。
自分を鍛えてくれた町はいろいろあったけれども、長崎はその一番大きなものの一つだろうと思います。
長崎及びその周辺がなかったら、私は自分の作品のうち、重要なものを失っていただろうと思います。」
『こころの風景 風の十字路より』一部抜粋
旧出津救助院(きゅうしつきゅうじょいん)
若い娘が活躍!出津集落にできた生産工場
旧出津救助院は、貧しい人々が新たに仕事を手に入れることを目的に建てられました。集落の若い娘たちに、パンやそうめん、お茶などの製造を指導。パスタ、マカロニといった西洋人が好む食品も作り、女性でも自立できることを目指します。
また、シスターとなった娘たちが暮らす家でもあり、祈りを捧げる場でもある旧出津救助院は、地域全体を支える大切な存在に。いつしかド・ロ神父は、親しみを込めて「ド・ロさま」と呼ばれるようになっていきました。
【旧出津救助院】
TEL:0959-25-1002
長崎市西出津町2696-1
休:月曜日(祝日の場合は翌日)
駐車場:あり
COLUMN
ド・ロさまって誰?
外海地区の発展に大きく貢献した人物ド・ロ神父を知っていますか?
キリスト教の布教活動のためにフランスからやってきたド・ロ神父は、この地域に生きる人々の貧しい暮らしを目の当たりにします。そこで、新しい産業や仕事、建築技術の知識を教えることで、なんとか生活の再建ができるのではないかと立ち上がりました。
バスチャン屋敷跡
バスチャンという人物
かつて、この地で信仰を守り、布教活動を続けた伝説の日本人伝道師・バスチャン。外海や浦上、五島の人々が、日繰り(キリストの生涯に関する祭式を年間に配分した典礼暦で、1年を通じて信仰心を高揚させるように作られたもの)や予言などを残した人物として語り伝えてきました。
ここは、バスチャンが役人に見つからないように隠れていたと言われる屋敷跡。途中に出会う石積みのド・ロ塀を抜け、小径を縫うように山奥へ進んでいくとやっと辿り着く、小さな建物。「隠れキリシタン」という言葉が示す意味を、訪れる人は身をもって体感することになります。
屋敷跡が物語る、隠れキリシタンの信仰の深さ
辺りは森閑な雰囲気で満ちており、脇を流れる川のせせらぎが響いています。まっすぐに上まで伸びる背の高い木々たちが空を覆い、わずかに漏れてくる陽の光。足元の石造の細い道はうっすらと苔むし、湿った空気が伝わってきます。
開けた空間に行き着いてから、20mほどの緩やかな傾斜を見上げた先に屋敷跡が。一歩一歩踏みしめるように登っていき、この場所でキリシタンを待ち続けた神聖な古小屋とようやく対峙できるのです。そこで初めて気付く、屋敷跡のスケール感。成人男性の視線の高さほどしかないこの小さな場所を、何人もの信者が目的地にして訪ねてきた事実。自分の足で小径を歩き、目の前にして初めて、その重大さが肌で感じられます。
静かに佇む屋敷跡が、伝道師と隠れキリシタンが密かに繋ぎとめた信仰心の深さを物語るように、心の中に語りかけてきます。
【バスチャン屋敷跡】
TEL:0959-24-0211(長崎市外海地域センター)
長崎市新牧野町1397-1
休:なし・見学自由
駐車場:なし
CAFE OZIMOC(カフェオジモック)
外海の歴史に触れる
15年の年月をかけてリノベーションした古民家カフェが、外海の丘の上にあるらしい。そんな噂を聞きつければ、確かめに行かないわけにはいきません。ということで、やってきたのがcafe ozimoc。
世界文化遺産に登録された構成資産で、ド・ロ神父が信徒のために設計した大野教会堂のすぐそば、ということも魅力です。
海を眺めながらカフェランチ
花と緑のガーデンに囲まれた外観。どことなく、外海の教会らしい雰囲気を纏う見た目に、期待感が高まります。
そして、お店に入って真っ先に視界に飛び込んでくる、圧倒的な眺め。ここだけ時間がゆっくり流れているんじゃないかと思わせるほど、別世界の空間が待っていました。
そんな癒しの風景を横目に、窓際の席でいただくのは「スパイシーキーマカレー」。地元産の食材や、ご近所さんと物々交換でもらった野菜などを使用した、大満足な一皿です。
【CAFE OZIMOC】
TEL:050-7583-2734
長崎市下大野町2542
休:火、水、木曜日
駐車場:あり
道の駅 夕陽が丘そとめ
夕陽の丘で角力灘の水平線を眺める
地域の食の恵みが揃う道の駅 夕陽が丘そとめは、広大な海のすぐそばにあり、夕陽に染まる絶景スポットとしても有名です。
空が広がる方に誘われていくと、一面に広がる角力灘(すもうなだ)の景色を望めることができます。晴れた日には、水平線の先に五島列島の島の輪郭が見えることも。
あそこまでなら、舟を漕いで渡っていけそう。かつてキリシタンたちも、海の向こうに見え隠れする島に想いを巡らせ、そんな気持ちになったのかもしれません。風に吹かれて、そんなことを考えているうちに時間が経ってしまいます。
そしていつの間にか、美しい夕陽に染まりゆく世界に没入していることに気が付きます。写真を撮ることも忘れるほど、心に焼き付くような、包み込んでくれるような、大海原の景色を思い出に残しませんか。
古くから外海に伝わる果実・ゆうこう
オススメは「ゆうこう」を使ったお土産品です。ゆうこうとは、長崎市南部とここ外海地区の二地域にしか自生樹が確認されておらず、地図に落とし込むと隠れキリシタンが住んでいた地域に集中していることが明らかに。そのため「キリシタンから伝来したのではないか?」と言われ、未だ謎のベールに包まれた柑橘類なのです。果実そのものは、11月下旬から1月中旬くらいが収穫の目安となっていますが、手作りジャムや、ドレッシング、ケーキにカステラなどがあり、お土産に最適です。
そのほか、旬の野菜や果物が並ぶのでぜひ立ち寄ってみてくださいね。
【道の駅 夕陽が丘そとめ】
TEL:0959-25-1430
長崎市黒崎東出津町149-2
休:1/1~1/3
駐車場:あり
どんな時も外海を照らし見守ってきた夕陽の美しさ、包み込むような海の力強さ。
追体験後に見える景色は、想像を越える感動へ誘ってくれます。
無意識にわき起こる感動と、知識の深みがあるからこその没入体験はいかがでしょうか。