第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<9⽉>-1

第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<9⽉> 第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<9⽉>

シーボルトお抱えの⽇本⼈絵師 川原慶賀は、江⼾時代の⻑崎の⾵景、⽂化、動物、植物などを細やかに描き、シーボルトの傑作三部作『⽇本』、『⽇本植物誌』、『⽇本動物誌』のベースとなる絵を数多く残しました。本ページでは、シーボルトが⻑崎を描かせた美しい図版と、⻑崎の季節のストーリーを結びつける「シーボルトの⻑崎歳時記」を展覧します。

鈴⾍鳴り響き、中秋の名⽉浮かぶ⻑崎の<9⽉>の⾵物詩をお楽しみください。

◆季節の⾏事|⽉⾒

【美しい“布引きの⽉”、約束の“⽚⾒の⽉”】
本作は、⻑崎の郊外で中秋の名⽉を楽しむ⽉⾒の様⼦を描いたもの。⻑崎の⽉⾒の名所といえば、茂⽊。島原半島を望む橘湾に映りこむ⽉光が、茂⽊の⽉⾒台まで布を引き渡すように光り輝き連なることから“布引きの⽉”と讃えられ、名勝として古くから愛されています。また川原慶賀の⽉⾒はもう1作残されており、花街から遊⼥とともに⽉を眺めるシーンが描かれています。⽉⾒の時期には、⼗五夜とその翌⽉の⼗三夜にも花街を訪れるように「両⽅来ないと『⽚⾒の⽉』」という謳い⽂句で誘われ、両⽅の⽉⾒を同じ庭で⾒る縁起にあやかっていたと⾔われています。

【まあるい⽉を愛で ⽉餅をほおばる“中秋節”】
⼗五夜の⽉を愛でる“中秋節”は、春節に次いで⼆番⽬の中国の重要な祭⽇。どこも⽋けていない美しい満⽉は“家族団欒”を象徴するめでたいもので、この⽇は家族と再会して⾷事をしながら、⽉⾒を楽しみます。また満⽉をかたどった平たく丸い⽣地でなめらかな餡を包んだ焼き菓⼦ ⽉餅を家族で切り分けて⾷べることで、⼀族の繁栄と幸福を祈ることも⽋かせない⾵習です。⻑崎の新地中華街では、毎年「⻑崎中華街中秋節」のお祭りが⾏われ、⽉に⾒⽴てた⻩⾊いランタンが賑やかに並ぶ⾵景や中国獅⼦舞などのイベントを楽しみながら、中国伝統の⽉餅を味わうことができます。

◆季節の⿂|カツオ

【秋の味覚 マグロにも負けない“トロ鰹”】
カツオは、毎年北上南下する回遊⿂。孵化したカツオの稚⿂は、春から初夏にかけて九州南部からエサを求めて北海道南部まで北上し、秋には⽔温低下にともなって南下し始めます。9⽉頃に⽔揚げされるカツオは“戻り鰹”と⾔い、エサをたっぷりと⾷べて⼤きくなっていることから、脂ノリがよく、もっちりとした⾝質で“トロ鰹”とも呼ばれ、秋の味覚として親しまれています。カツオらしいタタキで⾷すのはもちろん、脂ノリの良さを活かして薬味はニンニクだけを添えた刺⾝も定番です。

【和⾷に⽋かせない究極のダシ】
江⼾時代には冷蔵庫もなかったので、⿂の保存性を⾼める様々な⽔産加⼯技術が発達しました。豊漁で⾷べきれなかったカツオは、切⾝を燻製し、良質な⻘カビの⼒で⽔分を除去し、脂肪を分解することでまるで⽊⽚のような“鰹節”へと⽣まれ変わり、和⾷に⽋かせない究極のダシの素となります。シーボルトの助⼿ ビュルガーの報告には、「鰹節は内陸通商の重要な品⽬で、中国の商⼈によっても輸出されている」と記述され、国内流通品や貿易品として重宝されていたことが伺えます。

◆季節の植物|シュウメイギク

【秋の⾵情をまとった優雅な花】
花の季節は、8〜11⽉。“秋明菊”の名の通り、秋の⾵情をまとった優雅な花を咲かせます。実はキンポウゲ科の植物で、秋に咲くキクによく似ていることから名付けられています。シーボルトの覚書では、「キフネギクは森の湿潤地や⼩川のほとりなどに⽣えるが、最もよく⾒かけるのは京の都に近い貴船⼭である。貴船の菊を意味するキフネギクという和名はここに由来する。秋に開花する花が紫⾊で美しいためによく庭で栽培される。」と記され、江⼾参府でも⽴ち寄った京都ゆかりの美しい植物として紹介しています。

【不⽼⻑寿を願う“菊の節句”】
⽇本の秋を代表する花といえば、菊。9⽉9⽇の五節句の⼀つ“重陽の節句”は“菊の節句”とも呼ばれます。「菊の花は不⽼⻑寿をもたらす」という中国の神仙思想とともに伝来し、平安時代の宮中では不⽼⻑寿を願って菊酒を飲み、菊の花を鑑賞する秋の年中⾏事が始まりました。江⼾時代の園芸ブームでは品種改良により多種多様な菊が⽣み出され、縁⽇の露店などで鉢植えが売り出されるようになると、庶⺠にも親しまれる栽培植物となっていきます。川原慶賀の作『観菊会』では、⽇本庭園でゆったりと菊の展覧会を鑑賞する様⼦が⾵情豊かに描かれています。

share

市民に聞いたとっておきの長崎

次に読みたい特集記事

当サイトでは、利便性の向上と利用状況の解析、広告配信のためにCookieを使用しています。サイトを閲覧いただく際には、Cookieの使用に同意いただく必要があります。詳細はクッキーポリシーをご確認ください。
ページトップへ