第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<8⽉>-1

第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<8⽉> 第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<8⽉>

シーボルトお抱えの⽇本⼈絵師 川原慶賀は、江⼾時代の⻑崎の⾵景、⽂化、動物、植物などを細やかに描き、シーボルトの傑作三部作『⽇本』、『⽇本植物誌』、『⽇本動物誌』のベースとなる絵を数多く残しました。本ページでは、シーボルトが⻑崎を描かせた美しい図版と、⻑崎の季節のストーリーを結びつける「シーボルトの⻑崎歳時記」を展覧します。

⼣涼み、賑やかな花⽕の⾳に包まれる⻑崎の<8⽉>の⾵物詩をお楽しみください。

◆季節の⾏事|精霊流し

【故⼈を盛⼤に弔う ⼀夜の⼤騒ぎ】
本作は、8 ⽉15 ⽇のお盆に⾏われる⻑崎の伝統⾏事 精霊流しを描いたものです。故⼈を弔うひき⾈には⻄⽅浄⼟をあらわす「⻄⽅丸」と書きつけられ、背⾯の⼭の墓地には多くの提灯がイルミネーションのように灯っています。精霊流しは現代でも盛んに⾏われており、初盆を迎える遺族は故⼈の霊を極楽浄⼟へ送り出すために⾈を出します。南無阿弥陀仏を意味する「ドーイドーイ」の掛け声、⽿をつんざく魔除けの爆⽵が豪快に鳴り響き、⼀年で最も騒々しい夜となります。⻑崎のお盆の墓参りは⼣⽅から⾏われ、紙提灯を吊るした墓前で⼦供たちは賑やかに花⽕を楽しみます。

【精霊流しの起源 彩⾈流し】
むかし、⻑崎には貿易でやってきた中国⼈だけを住まわせた唐⼈屋敷があり、そこには幽霊堂と呼ばれる建物がありました。お堂では唐⼈屋敷で亡くなった中国⼈たちを弔っていましたが、次第に幽霊騒ぎが続いてきたので、霊魂を祀るために、年に⼀度「彩⾈流し」という祭礼を始めました。これは幽霊たちを故郷の中国へ送り出すため、⾦銀の紙などで美しく飾った藁船にのせて、海に流すというもので、これが今も⻑崎のお盆に⾏われている「精霊流し」の起源と⾔われています。

>>精霊流しの起源の⺠話「唐⼈幽霊堂」の観光⾳声ガイド(⾵景の美術館)
  https://landscape-museum.com/article/1645/

◆季節の⿂|アジ

【アジとは、その味の美なるものをいう】
儒学者 新井⽩⽯も「アジとは味なり、その味の美なるものをいう」と記したとおり、アジは味の良い⿂であらゆる調理法とマッチします。古来より⽇本で親しまれている万能⿂で、平安時代の『延喜式』には、神饌や⾏事⾷に⽤いられた記述もあります。江⼾時代には、江⼾前アジと重宝され、夏の⼣⽅には棒⼿振の⿂売りもアジ売りとして「あじぃ、あじぉ〜」と江⼾のまちを売り歩き、「⼣河岸や ひとしほ旨き 鯵の⿂(柳多留⼀⼆三)」などの川柳にもよく詠まれる夏の⾵物詩でした。

【こりこりとした新鮮な刺⾝をご賞味あれ】
⻑崎のアジは漁獲量⽇本⼀で、通年を通して安価な⼤衆⿂として親しまれていますが、特に産卵期を控えた旬の夏には、⾝が厚く脂がよくのります。⻘⿂の代表格で鮮度が落ちやすいため、刺⾝を⾷べるなら産地がイチバン。⿂にもフルーツのように熟成があり、⽔揚げされた鮮⿂は時間をかけて旨味成分イノシン酸が増して徐々に柔らかくなりますが、産地⻑崎ではとれたて新鮮のこりこりとした⾷感の刺⾝を重宝し、九州らしい旨味のある⽢い醤油で味わうのも醍醐味となっています。

◆季節の植物|ナツフジ

【素朴な⽇本的情趣をやどす、真夏の草花】
花の季節は、8⽉。⽇本固有種で、東海地⽅以⻄に分布するつる性落葉樹。季節外れの夏に咲く「トキジキフジ(時じき藤)」とも呼ばれます。万葉集においても、⼤伴家持が妻へ贈った作で「わが屋前の 時じき藤のめづらしく 今も⾒てしか妹が笑まひを」(訳:私の庭にナツフジが咲きました。この花のように愛らしいあなたの笑顔を今すぐ⾒たいものだ)と詠われるなど、古来より⽇本⼈に親しまれています。シーボルトの覚書では素朴を慈しむ⽇本的情趣への気づきが記されています。

【シーボルト『⽇本植物誌』本⽂覚書より】
このつる植物は普通、藪の中とか⽣垣とかに⽣えるが、庭で栽培されることもある。近くの低⽊や⾼⽊に巻きつき、⾮常に密⽣した枝によって⽊々の⼀部をおおってしまう。七、⼋⽉の開花期には、⽊々の梢から垂れ下がった総状花序は素晴らしい眺めで、このフジにおおわれた低⽊に野趣豊かな美しさを添える。⽇本ではこうした野趣豊かな美しさが珍重され、⽂化的な⼿が加えられていない⾃然の豊かさを、庭にそのまま移すことが好んで⾏われるのである。
 

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