第4章 シーボルトの⻑崎歳時記<5〜6⽉>
シーボルトお抱えの⽇本⼈絵師 川原慶賀は、江⼾時代の⻑崎の風景、⽂化、動物、植物などを細やかに描き、シーボルトの傑作三部作『⽇本』、『⽇本植物誌』、『⽇本動物誌』のベースとなる絵を数多く残しました。本ページでは、シーボルトが⻑崎を描かせた美しい図版と、⻑崎の季節のストーリーを結びつける「シーボルトの⻑崎歳時記」を展覧します。
初夏の爽やかな⾵、⾬の似合う⻑崎の<5〜6⽉>の⾵物詩をお楽しみください。
◆季節の⾏事|端午の節句
【⻑崎流、あまーい鯉菓⼦】
端午の節句では、「鯉が滝を登り、⿓となる」という中国の故事にちなみ、⽴⾝出世の願いを込めて鯉のぼりを飾りますが、そこはシュガーロードの始まりの地 ⻑崎。⽢いあんを柔らかな求肥で包み、鯉の形に細⼯した縁起物の「鯉菓⼦」が発明され、端午の節句の祝い菓⼦として根付いています。また対となる桃の節句では、「桃カステラ」を配る⾵習もあり、共に⻑崎の菓⼦⽂化を彩っています。
【端午の守り神 鍾馗(しょうき)】
のぼり旗に描かれる男は、中国の神様「鍾馗」。中国の皇帝が病気になったとき、夢に現れた⼩⻤を退治した⼤男が鍾馗と名乗り、⽬覚めると回復していたという逸話とともに伝来し、⼦供の無病息災を願う端午の節句の守り神として親しまれました。⻑崎三筆の⼀⼈ 三浦梧⾨(1808〜1860)は、鍾馗図の名⼠で、その絵は江⼾時代に流⾏した病気コレラを払う病魔除けとして評判を呼びました。
◆季節の⿂|イサキ
【初夏を告げる、梅⾬イサキ】
⻑崎といえば、⾬。梅⾬の⻑崎ではアジサイが⾬に咲き、瑞々しいビワが実りますが、産卵期を前に脂がたっぷりのった“梅⾬イサキ”も初夏を告げる⾵物詩の⼀つ。昼間は海藻の多い海底にいて、夜間になると岸に近づき活発に遊泳することから、集⿂灯を⽤いて⼀本釣りする夜焚き漁でも漁獲されます。釣れたばかりの背びれはピンと張っており、鶏のトサカに⾒⽴て、「鶏⿂」とも呼ばれます。
【濃厚な脂がのって、磯の⾹りが⽴つ万能⿂】
⻑崎はイサキの⼀⼤産地で、⽣産量は全国⼀位の30%を占めており、⾝質・脂ののりがよい鮮⿂は、全国へ出荷されています。旬のイサキは、癖のない⽩⾝でありながら、濃厚で⽢い脂がのります。刺⾝、寿司をはじめ、塩焼き、煮付け、ムニエル、フライ、アクアパッツァなど、どんな調理法にも合う万能⿂。中でも⽪と⾝の間の脂がジューシーなので、⽪⽬を軽くあぶった刺⾝は絶品です。
◆季節の植物|ヤマアジサイ
【⽇本の沢に咲く、慎ましく可憐な花】
花の季節は、5〜7⽉。⼭地の沢に⾃⽣し、慎ましく可憐な花を咲かせる落葉低⽊。⽇本の園芸⽂化発祥地である京都・⼤阪では古くから観賞⽤として着⽬され、庭園などで栽培されていました。ヤマアジサイには、乾燥させた葉を煎じて飲むと⽢いアマチャという変種があり、釈迦の誕⽣を祝う花まつりに使われることで知られています。
【⾬の似合う、ながさき紫陽花まつり】
⻑崎市の花は、シーボルトゆかりのアジサイ。⾬の似合う⻑崎市では、毎年5⽉下旬から6⽉中旬にかけて「ながさき紫陽花まつり」が開催されます。期間中は、シーボルト記念館、眼鏡橋周辺などの各所で多種多様なアジサイを鑑賞できますが、中でも興福寺では、仏教と縁の深いヤマアジサイが100株ほど地植えされ、鉢植えも合わせて数多くの可憐な⾬の花に出会える場所となっています。